03)“COLD WATER OF OLDMAN(年寄りの冷水)”


早朝5:30。
朝もやけむる静かな能見台の高台を貫く一本道を、
銀色に輝く一台の改造車椅子が疾風のように走り抜ける。

ウォンウォンウォンウォン!

125ccにボアアップされ、ターボチューンされたエンジンから突き出た2本のマフラーから吐き出される排気音があたりに響き渡る。

もちろん車椅子にガソリンエンジンを搭載するのは立派な違法行為だ。
今の時代、一般的なハンドル付きの電気モーターの4輪車椅子でもチューンすれば時速50kmはゆうに出るが、
しかし“走り屋”と呼ばれている高齢者の間では、90km/h以上の最高速度、
そして心地よい振動とこの排気音の魅力で、もっぱらガソリンエンジンが主流だ。

ギャギャギャギャ〜!

カーブにさしかかると特注のスリックタイヤがうなりを上げ、
シルバーのフルエアロで包まれた車体のリアウイングに黒の文字で刻まれた、
“COLD WATER OF OLDMAN(年寄りの冷水)”のカッティング文字が真横に流れ、
そのまま低い車体は見事なドリフトラインを描き一気にコーナーを抜けていく。

そもそも車椅子はコーナリング性能は抜群だ。低速ならばほぼ直角に曲がることができる。

しかし、チューンされたサスペンションと軽量チタンホイール&スリックタイヤをもってしても、
この速度でこのコーナーをこのように抜けていくのは、並大抵のテクニックではない。

このシャコタン車椅子を操っているのは、
やや禿げ上がった白髪のオールバックにサングラス。
黒のTシャツに革のベスト・・・(いや、前で革紐で結ぶつくりなので
革のチャンチャンコと呼んだ方が正解か)と革パンツというスタイルの人物。
年季の入った革パンツのウエストとゴツいブーツのくるぶしには銀色の鎖の飾りが付いている。

車椅子なのでおそらく高齢者ではあろうが、
あの運転は普通じゃあない。

最近は高齢者といえどもまだまだやんちゃな人も多いが、
この人物はどう見ても怪しすぎる。

「うわ・・・ちょっとやべえなぁ・・・この時間だともう、みんな起きちまってるかも・・・」

なにやらあせっている様子なその怪しい高齢者の車椅子は、
次の信号の交差点を、タイヤを軋ませながらそのままのスピードでほぼ直角に曲がり、
ウォンウォンウォンウォ〜〜〜ン!
排気音だけを残し、まだひっそりとしている住宅街の方角に姿を消していった。






・ 次頁へ
・ 前頁へ
・ 表紙へ

・ TAKUプロフィール
・ 無理矢理なメニュー!
・ ケータイTOP