10)慰問
養老院と言えば慰問がつきものである。
もちろん我富岡長寿園にも、毎月、色々な団体のボランティアや
地元の小中学校、幼稚園の子供達などが慰問に訪れる。
普段あまり刺激のない養老院の生活の中で、月に一度の慰問は、
生徒にとっては何よりも楽しみなイベントのひとつだ。
演劇・演奏会・座談会・ゲーム大会・食事会等、毎回趣向をこらした内容で、
核家族化により普段高齢者と接する機会の少なくなってしまった現代の子供・若者達と、
毎日老人だけの環境で暮らす長寿園の生徒との、貴重な暖かいふれあいの交流が行われる。
今日慰問に訪れたのは、地元の“すこやか幼稚園”の園児達。
そして本日のイベントは、恒例のドッジボール大会。
お天気にも恵まれ、ほのかに暖かい陽射しの中、
双方の選抜メンバーで構成された園児チームと長寿園チームは、
今日も一日、健康的に、そして和気あいあいとスポーツを楽しむのだ。
試合開始・・・
「よっし。いくよお おじいちゃん達。エイっ!」
「あはは。なんじゃそのヒョロヒョロ球は。そんな球じゃワシらはたおせんぞ」
「よ〜し。こんだそこいくよお〜。エイッ!」
「おお。すごいなあ坊主。今度はワシらの番じゃ。いくでえ〜。ほにょほにょ〜!」
「いて。やったなぁ〜。」
「どうじゃ、歳の功じゃ。あはは」
「まけないぞお。僕の必殺ボールをうけてみろおおお!エイッ!」
「いてて。なんじゃ、なかなかやるもんじゃなぁ。あはは」
まるで、かわいい孫とその優しいおじいちゃんがたわむれているような微笑ましい雰囲気。
応援するみんなの顔にも笑顔が浮かび、試合は楽しく進んでいく。
20分経過・・・
ワンパク盛りの幼稚園児と、高齢者といえどもまだまだ元気な長寿園の生徒、
なごやかながらも一進一退の攻防が続き、なかなか見ごたえのある試合になってきた。
両チームの選手達も、額に汗をかきながら元気溌剌とボールを追っている。
40分経過・・・
その後も、試合は両チーム一歩も譲らない好ゲーム展開。会場の応援も時間とともに段々と盛り上がっていく。
スコアは依然五分五分といったところか。選手のプレイも、よりアグレッシブになってきている。
そして1時間経過・・・
試合は佳境をむかえ、たとえ慰問のゲームといえども、あまりに素晴らしい白熱した試合展開に、
グランドのメンバーはもちろん、応援している観客も、ややヒートアップの様相を呈してきた。
「おっしゃぁああ!」
「いくぜぇえ〜!ファイ!おぅぅ!」
最後のタイムアウトが終り、両チーム気合とともに選手達がそれぞれのコートに散っていく。
すこやか幼稚園チームのターンだ。
「くっそお。老いぼれども・・・全員ぜったい殺す! どりゃああ〜!」
園児の投げたボールが、うなりをあげて長寿園チームを襲う。
恐ろしい程のスピードと回転を持ったそのボールが一人の顔面を直撃した。
グバッ!
もろに顔にボールを食らったその選手は、もんどりうって鼻から血しぶきをあげながら後ろへ倒れる。
「ぎゃははは。やったやった。ざまあみろってんだ うききき」
小躍りしてよろこぶ園児達。園児といっても最近の子供の発育はものすごく早い。
2040年の幼稚園児の平均身長は140cmを超える。体力的には長寿園チームと互角だ。
いや、若い幼稚園児達の方が、筋力・気力ともに勝っているといっても過言ではない。
「うお・・・だいじょぶか〜〜〜!!?」
駆け寄る長寿園メンバー。しかし、倒れた選手の意識はない。完全に脳震盪を起こしている。
「じっぐしょう・・・あのコゾウども許さん!ワシらよか先に冥土へ送ってやる」
担架で運び出される仲間を見ながら、メラメラと復讐心に燃え上がる長寿園メンバー。
「オリャ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
怒りのボールが今度は、園児達に向かって襲いかかる。
逃れようと走る園児の後頭部に、後ろから必殺の剛速球がヒット。
グワシャッ!・・・・・ヒクヒクヒク
顔面から倒れ込んだ園児は、そのまま地面に顔を打ち付け痙攣を起こしている。
「よっしゃあああ! オサムちゃんの仇をとったぞおおい。きゃははは」
「おのれ〜じじい。死にぞこないだと思って甘い顔してやりゃいい気になりやがって」
「おっし、ユ〜ジ君。残りのジジイを皆殺しだ〜!」
「ぎゃはは。かかってきやがれガキどもめ。年寄りをなめたら後悔すっどぉ」
「おお言ったなコラ。入れ歯はずして待っとれよ」
「かかってきやがれ ションベンたれども」
「ウオオオオオオオ〜〜〜〜!」
「だははは。そんなヒョロヒョロボールに当たってたまるかいな。おちりペンペン」
「てめ・・次で殺す!トリャアアアアア〜〜〜!」
「ぐはっ!」
「ちっくしょう、棟梁がやられたど!」
「仇をうて仇を〜〜〜!こうなったら弔い合戦じゃああああ!」
「ドリャアアアアア〜〜〜!」
「うぐっ」
「きゃはははは。ざま〜みさらせってんだ。ごぞう」
「死ねぇぇぇぇぇ〜〜〜〜〜〜〜!」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ〜〜〜!」
いつの間にか西の空には、大きな夕日が沈みかけている。
ここは横浜市立富岡長寿園。
今日も一日が平和に暮れようとしている。
まだグランドからは、幼い園児達と高齢者達の、ドッジボールを楽しむ元気な声が聞こえてくる。
「死ねぇぇぇぇぇぇぇ〜〜〜っ!
「おっしゃ〜〜〜〜っ!」
「てぇ〜めぇえええ〜〜!」
「うおぉぉおぉぉぉお〜〜〜〜〜〜〜〜!」
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